相続が開始すると、相続人らは、民法が定める割合(これを「法定相続分」といいます。)に従って、当然に遺産を共同して引き継ぐことになります(但し、遺言書がある場合には事情は異なります。)。
たとえば、Aが亡くなったとして、Aには、妻Bと2人の子C・Dがいるとします。この時、Aの相続において相続人となるのは、BCDの3人です。そして、Aの死亡後、BCDが特に何もしなくても、BCDは、民法が定める法定相続分に従って、B:1/2、C:1/4、D:1/4の割合で、Aの遺産を当然に共同相続します。
法律上は、こうした共同相続状態のままでも何ら問題はありません。
しかし、複数の相続人が遺産を共有しているという状態は、何かと不安定かつ不便です。
上でみたAの相続の場合を例にとると、遺産のうち、BがAとともに暮らしていた自宅不動産はBに単独で取得させて、Aの預貯金についてはCに取得させて、Aの自動車はDに取得させるといったように、それぞれの遺産を個々の相続人が単独で取得する方が、遺産の分け方として明快です。
このように、相続人らが、遺産の取り分け方を自ら決定するために行うのが、遺産分割です。遺産分割を行うためには、まずは共同相続人全員で協議を行うことが必要ですが、協議さえまとまれば、法定相続分を全く無視した遺産分割を行うことも可能なのです。
たとえば、Aの相続の場合を例にとると、BCDで協議がまとまるのであれば、全ての遺産をBに単独で取得させるという遺産分割を行うことも可能なのです。
協議による遺産分割を試みたにも関わらず、相続人間で話がまとまらず、遺産を分けられないという場合や、そもそも相続人間で協議をすることが出来ないという場合には、家庭裁判所に対して、遺産分割の調停や審判を申 し立てることができます。
遺言とは、何のために書くものでしょうか。 一般に、遺言書は、「人の最終意思を表すもの」と考えられています。
のこされた家族に対して、どうやって財産を振り分けたいのか。
遺言者の最終意思を遺言書に記載しておけば、相続が開始した時、原則としてその内容通りに遺産が分割され ます。
「自らの死後に家族が遺産を巡って争わないようにしてあげたい・・・。」そんなお気持ちをお持ちの方は、 遺言書を作成されるのがよいでしょう。
遺言とは、遺言者の最終意思の表れですから、遺言者の本当の意思を確保するために、遺言書が偽造されたり 変造されたりすることを防がなければなりません。そこで、民法は、遺言書が有効とされるための要件を厳格 に規定し、要件が欠けている遺言書は無効にするという取扱いをしています。
民法上有効とされる遺言書は、特殊なものを除けば、次の3種類のみです。
遺言者自身が自筆し、押印をするだけで作成することが出来る、最も手軽な遺言書です。 しかし、自分1人で作れるがゆえに、民法上の有効要件が欠けてしまい無効となる危険性が最も高い遺 言書ともいえます。
なお、相続法が改正され、自筆証書遺言の一部は自署する必要がなくなりました(2020年1月13日~)
・遺言本文⇒自書が必要
・財産目録⇒自書しなくてOK
① パソコンで遺産の明細書を作成
② 不動産の登記事項証明書を添付
③ 預貯金の通帳口座のコピーを添付
これらに自署による署名と捺印をする。
また、従来は、自筆証書遺言は自ら保管しなければならないため、災害や不注意により滅失・紛失したり、 隠匿や改ざんされる恐れもありましたが、相続法の改正により、自筆証書遺言を法務局で保管してもらうことで、そのようなリスクを回避することが可能になりました。
公正証書遺言は、証人2名以上の立会いの下に、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口頭で伝え、公証人が 遺言者の口述内容を筆記する方法です。
公正証書遺言の場合、公証人が作成を行ないますので、作成後に遺言者と証人に読む、あるいは閲覧し て作成内容を確認します。確認が完了いたしましたら、遺言者と証人が署名と押印をし、最後に公証人 が署名と押印を行ないます。
公正証書遺言は基本的に公証役場で作成することが原則ですが、寝たきりで介護が必要な方など、公証 役場まで出向くことが困難な場合には、公証人が家や病院まで訪問してくれる場合もあります。
秘密証書遺言は、他者に遺言内容を一切知られることなく作成できる遺言書です。
作成した遺言書は、封筒に入れ、遺言書に使ったものと同じ印章で封印します。その際、封入、封印は 遺言者自身が行います。証書の封印が完了したら、公証役場で、それを公証人1名及び証人2名の前に提出して、それが自分の遺言書であることなどを述べます。公証人が、証書の提出された日付と遺言者 が述べた内容を封紙に記載し、遺言者・公証人・証人がともに署名・押印をすることで完成します。
遺言書の書き方は複数ありますが、一般的に最も信頼できる方法は「公正証書遺言」です。公正証書遺言の原 本は、公証役場で保管されますから、遺言書が偽造・変造されたり、遺言書を紛失してしまうというリスクを回避できる手続きであるといえます。
一方で、遺言の内容を他の誰にも知られたくない場合は、秘密証書遺言あるいは自筆証書遺言の利用をお勧め します。
遺言について分からないことやお悩みがございましたら、お気軽にご相談下さい
相続で注意しなければならないのは、必ずしもプラスの財産を引き継ぐことばかりではないということです。
お亡くなりになられた方が借金などでマイナスの財産を持っていた場合、相続人らは、被相続人のマイナス財産 もあわせて引き継ぐことになります。
このように、そもそもマイナスの財産しかない、あるいはプラスの財産の額とマイナスの財産の額を比べた結果、後者の方が多いという場合、相続人らは、自らが損失を被らないようにするためには、「相続放棄」や「限定承認」という制度を利用しなければなりません。
しかし、これらの制度には、期間制限があり、いつまででも自由に利用出来るというわけではありません。また、 相続開始後に、相続人らが、民法が定める一定の違反行為を行ってしまうと、これらの制度の利用が出来なくなることもあります。
ですから、相続が開始された時には、なるべく早い段階で、弁護士への相談を行うことをお勧めします。
相続人間の協議で話がまとまらず遺産を分けられない場合や,そもそも相続人間で協議ができないという場合に利用することができる手続きです。
遺産分割調停は,家庭裁判所に申立てることで利用できます。
この調停は,相続人全員が参加する必要があります。つまり,相続人のうちの一人若しくは何人かが,他の相続人全員を相手方として申立てることになります。
調停は,概ね月1回,平日の午前か午後に家庭裁判所に相続人が集まって行われます。
調停手続きでは,裁判所が設置する「調停委員会」(2名の調停委員と1名の裁判官で構成されます)が話し合いを主導します。当事者から事情を聞いたり,必要に応じて資料を提出し,場合によっては遺産について鑑定を行ったりして,事情を把握し,解決案を提示したり,解決のための助言をします。
調停はあくまでも「話し合いの場」です。調停委員という第三者が間に入ることで合意を目指すものです。
調停では,それぞれの相続人の主張を調停委員が聞いて相手方に伝えるという方法で進められます。直接当事者同士が顔を会わせるのは最初と最後のみであり、一緒に話し合うことはほとんどありません。
そのため、遺産分割協議でまとまらなかった話し合いがスムーズに進むことが期待されます。
話し合いがまとまると,調停が成立し,家庭裁判所が,話し合いによって決められた分割方法での「調停調書」を作成します。
相続人は,この「調停調書」に従って,遺産を配分します。
話し合いがまとまらない場合は,調停は不成立となります。
注意が必要なのは,調停が不成立となった場合,自動的に「遺産分割審判」の手続きが開始されるという点です。(遺産分割審判については,Q2をご参照ください)
遺産分割審判では,引き続き必要な審理が行われ,裁判官が,一切の事情を考慮して,遺産の分割の仕方についての結論(審判)を出します。
遺産分割調停では,ご自身の言い分をわかりやすく主張し,それを裏付ける資料を適切に提出することが重要です。
遺産分割審判は,遺産分割調停が不成立になったとき,自動的に移行して行われる手続きです。
遺産分割審判から申立てることはできず,必ず遺産分割調停を経る必要があります。
遺産分割審判は調停と異なり,「話し合い」の場ではありません
裁判官がそれぞれの主張の内容や資料を下に,遺産の分割方法について適切と考える方法を指定します。
(手続きの中で,和解を進められることはあります)。
審判では,審判期日に当事者双方が出席し,裁判官が,当事者に質問をしたり主張の内容を確認したりします。
このような期日を1回~数回繰り返し,最終的には,裁判官が,「審判」を出します。
裁判官は,当事者から提出される主張に関する書面や証拠を下に判断をしますので,適切な書面や証拠を提出することが大切です。
審判に不服がある場合は,2週間以内に「即時抗告」という手続きをすることができます。即時抗告をすると,高等裁判所で再度争うことになります。
判決に不服がなければ,審判が確定し,その内容で遺産の分割を進めることになります。
このように,遺産分割審判は,遺産分割についての最終的な判断を得ることができます。
しかし,話し合いのような柔軟な解決はできませんし,全員の希望がするような解決にはならないことも多くあります。
また,遺産分割審判まで進む場合には時間も手間も多大にかかります。
亡くなった方がなくなった時点で持っていた財産が相続財産(遺産)です。
相続財産にはプラスの財産とマイナスの財産があります。
不動産、動産(車など)、現金、預貯金、有価証券、借地権 など
借金、保証債務、損害賠償債務 など
次のような財産は、遺産には含まれないため、注意が必要です。
亡くなった時点で持っていた財産ではないため相続財産に含まれません。
喪主や遺族への贈与であり、亡くなった方の財産ではありません。
民法上は、『祭祀承継』をした人が引き継ぐこととなっているため、相続では扱いません。 ただし、相続人全員の同意で相続の中で扱うことも可能です。
「特別受益」制度とは、共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けたり、また、婚姻や養子縁組の ため、あるいは生計の資本として生前贈与を受けたりした者がいた場合、その者については相続分の前渡しを受けたものとして、その者の相続分について減額調整を行うための制度です。
たとえば、被相続人Aに、共同相続人としてBCDがいたとします。そして、Aの生前に、BはAから多額 の現金の贈与を受けていたとします。他方、CDは、Aから何も貰っていなかったとします。
この場合、Aが死亡して相続が開始した後、BCDの相続分が全く同じであるとすると、Bだけが得をす ることになってしまってCDとの公平を害します。そこで、Bの相続分を算出するにあたって、BがAから生前に多額の現金の贈与を受けていたことを一定の計算方法に従って考慮して、Bの相続分を 減らし、その分CDの相続分を増やすという手当てをすることになるのです。
この特別受益制度は、多くの遺産分割において問題となり、遺産分割の話し合いの進行を阻害する 要因となります。
つまり、共同相続人の一人が他の共同相続人に対して、「○○は父の生前にたくさん金銭贈与を受 けていた。特別受益を受けている。」と主張するのです。こうなると、言われた方も、「いや、○○こそ、自宅を建てるときに父から援助を受けていたはずだ。これも特別受益だ。」と反論したくな ります。
こうして、共同相続人間で、貰った貰ってない合戦が始まり、はるか昔の少額の贈与などにも話が広 がっていくことがあるのです。
しかし、こうなると、遺産分割協議は全く進まなくなります。お互い、相手の特別受益を見つけ出し 指摘することが第一目標になってしまい、「今ある遺産をどうやって分割するのか」という本当の 目的を見失ってしまうのです。
特別受益を考慮して、共同相続人間の公平を実現することはとても大切なことです。ですが、それ ばかりに気を取られ過ぎず、現実に即した遺産分割を早期に実現するという本来の目的を見失わな いようにすることも同様に大切です。
なお、改正相続税法では、 「特別受益の持戻し免除の意思表示の推定」という制度がのできました。 これは、1婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が、他方に対し、 2居住用の建物やその敷地を贈与(遺贈)した場合 に、持戻し免除の意思表示があったものと推定されるというものです。
これらの要件を満たせば、長年連れ添った夫婦間で居住用不動産を贈与した場合、わざわざ遺言 などで意思表示しておかなくても、持戻し計算を免除されます。
ご自身の贈与が特別受益に当たるかどうか不安があるという方はお気軽にご相談ください。
「寄与分」制度とは、共同相続人の中に、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与を した者があるときに、その貢献度合を金銭的に評価して、その寄与に相当する額を法定相続分に上乗せすることで、共同相続人間の公平を実現する制度です。
たとえば、被相続人Aに、共同相続人としてBCDがいたとします。そして、Aの生前に、Cは、毎日Aの身 の回りの世話を無償で行い、Cがいてくれたから、Aは施設に入る必要もなく、介護にかかる費用が大幅に削減できたとします。他方、BDは、県外に居住しており、年に1回だけAの様子を見に帰省して いる程度だったとします。
この場合、Aが死亡して相続が開始した後、BCDの相続分が全く同じであるとすると、Cだけが 損をすることになってしまってBDとの公平を害します。そこで、Cの相続分を算出するにあたって、CがAの面倒を見たことでAの財産が減らずに済んだという事情を金銭的に評価して、 これを一定の計算方法に従って考慮して、Cの相続分を増やし、その分BDの相続分を減らすと いう手当てをすることになるのです。
しかし、寄与分も、特別受益の場合と同様に、遺産分割協議を紛糾させる要因となり得ます。 共同相続人間で、「してあげたしてあげてない合戦」になってしまうと、本末転倒です。
ですから、寄与分についても、現実に即した遺産分割を早期に実現するという本来の目的を見 失わないようにすることが大切です。
遺留分とは、遺産のうち、必ず相続人に残さなければならない一定割合のことをいいます。
遺留分を請求出来るのは、相続人のうちでも、1配偶者、2直系卑属、3直系尊属のみです。 兄弟姉妹には遺留分はありません。
たとえば、Aが死亡したとして、Aには、配偶者Bと2人の子CDがいたとします。この時、A が遺言を作成しており、その遺言書には、「全ての財産をDに遺贈する。」と書かれていたとします。配偶者であるBと直系卑属であるCには、民法上、B:1/4、C:1/8の遺留分がある とされていますから、本来、Bには、遺産のうち少なくとも4分の1が、Cには、遺産のうち少なくとも8分の1が、それぞれ残されていなければならないのです。それなのに、Aの Dに対する遺産全ての遺贈によって、BとCのそれら遺留分は侵害されてしまったことになります。
このような事態が起こった時に、BやCがDに対して遺留分減殺請求権という権利を行使すれ ば、BやCは、Dから、自らの遺留分相当割合を取り戻すことが出来るのです。
遺留分減殺請求権は、権利行使可能期間が1年と短いですし、遺留分の計算方法も複雑です。 ですから、「自分の遺留分は侵害されているのではないか・・・。」とお悩みの方は、早い段階で弁護士にご相談されることをお勧めします。
相続・遺言における弁護士費用については、「弁護士費用」ページの「相続・遺言」をご参照ください。