障害とは何でしょうか?
これまでは,「障害」とは,ある人個人の病気やその他の健康状態から生じたものであって,その人の行動を妨げるものを指すと理解されてきました。たとえば,目が見えないこと,耳が聞こえないこと,足が動かないことといった心身の状態 そのものが障害であると理解されてきたのです。
このような障害の捉え方を,障害の「医学モデル」と言います。「医学モデル」によれば,障害とは,個人の責任で乗り越えて,障がいのない人と同じように社会で生きられるよう自ら改善すべきものと考えます。
しかし,このような障害観は,すでに過去のものとなりつつあります。現在では,「障害」を社会の問題と捉える「社会モデル」という考え方がグローバルスタンダードになりつつあります。
「社会モデル」によれば,それぞれに異なる心身の状態に対する社会環境の整備が不十分であること,そして,それゆえに,生きにくいと感じること,それこそが障がいであると考えます。医学モデルによって障害と捉えられていた,「心身の状態」は,そもそも人それぞれ異なっていて当然なのだから,それ自体を障害と捉える必要はないと考えるのです。
たとえば,足が動かなくて車椅子を利用している人でも,スロープが設置され,エレベーターが設置され,段差が全くない環境であれば,何ら不自由を感じることはありません。社会側の環境整備が十分であれば,足が動かない人にも障害はないのです。
このように,個人を取り巻く社会の側が,個々人の心身の状態にあった社会を構築出来ていないことこそが障害と考えると,障害を改善する努力をすべきなのは,個人ではなく社会であるということになります。つまり,社会には,そういった社会的障壁に基づく個々人の生きにくさを解消する責任があるのです。
この「医学モデル」から「社会モデル」への障がい観の転換は,単なる学説や考え方の1つというわけではありません。平成23年の障害者基本法改正でも平成25年に制定された障害者差別解消法にも社会モデルの考え方が取り込まれていますし,平成26年1月に批准された障害者権利条約でも,社会モデルに基づく障がいの理解がなされています。現在の日本における障害者福祉施策は,こうした流れに則っているのです。
当事務所ではこのような障害観に則り,障害のある人の社会参加をサポートさせていただきます。
障害のある人が社会のなかでぶつかる問題の多くは,権利の問題つまり「法律問題」です。
しかし,障害のある人が何か困りごとに出会ったとき,「弁護士に相談に行こう!」とはなかなかならないと思います。福祉サービスや行政の窓口に相談に行くか,どこにも相談に行けずに抱え込んでしまうことが多いのではないでしょうか。
また,弁護士に相談できますよ,といっても,具体的にどのようなことを相談できて,どのような解決につながるのかわかりにくい,という声も良くお聞きします。
生活の中で困ったことがあり,どこにも相談できないというときは,どのような内容でもご相談いただける(弁護士ではないところに相談した方がよい場合は,連携している関係機関におつなぎします)のですが,そうはいってもどんなときに弁護士のところに行けばいいのか分からないという方も多いでしょう。
そこで,障害のある人からのご相談でよくあるものを少しご紹介します。
「視覚障害があり,墨字を読めないから採用できないといわれた。」「事故で車椅子を利用するようになったら,解雇すると言われた。」など。
「医療的ケアが必要な子どもは,幼稚園では受け入れられないといわれた。」「発達障害がある子どもに対する合理的配慮を求めたいが,学校とうまく調整できない」など
「障害を理由にアパートへの入居を断わられた。」「通所サービスを利用中に転倒事故が起こった。」「盲導犬を連れているとタクシーの利用を断られた。」など
「グループホームから,ルール違反や迷惑行為が多いので退去して欲しいといわれている。」など
「一人暮らしをしたいが,役場からは公的介護では難しいといわれた。」
「電動車椅子の給付が認めてもらえない。」 など
「軽度の知的障害がある子どもが,携帯電話で多額の課金をしてしまい,高額の請求が来た。」
「サラ金から多額に借り入れをして浪費してしまった。」「高額なサプリを訪問販売で買ってしまった。」「知的障害がある子どもがいるが,親が亡くなった後の財産管理や生活が心配。」など
「利用している事業所で暴力を受けた。」「入居先の施設が年金を管理し,渡してくれない。」など
ここに挙げたのは一例で,このほかにも様々な困りごとをお聞きすることがあります。
また,障害のある人からのご相談だけでなく,事業者側からのご相談についても,障害についての理解を前提に,双方にとってよい解決になるよう助言させていただくこともできます。
自分の困りごとが,法律問題かどうかわからないという方は多くいらっしゃいます。
そのような場合でも,お問い合わせいただければ,弁護士としてご相談をお受けする事案かどうかを検討してお答えさせていただきます。
ただ,みなさんが思う以上に,日々の生活の中での困りごとは,「法律問題」であることが多いものです。ですので,遠慮せずまずはお問い合わせいただければと思います。
また,法律問題ではない場合や,法律問題ではあるけれども,福祉や他の専門職の知識も必要だという事案も多くあります。当事務所では,様々な福祉機関や専門職と連携しておりますので,そのような事案では,適切な機関におつなぎさせていただくことも可能です。
弁護士は,法的問題について相談を受けてアドバイスしたり,代理人として相手方との間での紛争解決を目指す仕事です。紛争解決の方法は,裁判に限らず,話し合いでの解決や調停(裁判所を利用した話し合いの手続き)を利用することもあります。
事案によっては,アドバイスだけで,良い解決方法が見つかることもあります。
事案ごとに適切な方法を考えることも,わたしたち弁護士の仕事の一つです。
特に,障害のある人からのご相談は,裁判で白黒付けるというよりは,相手方との間でしっかりと話し合いをし,双方の言い分を調整して,適切な解決を図る方が,良い解決につながることが多くあります。相談者が,「裁判まではしたくない。」「話し合いで解決したい。」という希望をお持ちの場合も良くあります。
そのような事案では,相談者の希望をお聞きしながら,一緒に紛争解決のための方法を考えます。
当事者同士ではこじれてしまった話し合いに弁護士が代理人として入って,法的な観点から整理をすることでよりよい解決につながることも多々あります。
紛争解決にはいくつもの方法があります。弁護士に相談すると,裁判をしなければならなくなるということはありません。安心してご相談ください
認知症,知的障害,精神障害などの理由で物事を判断する能力が十分ではない方々に家庭裁判所が本人の権利を守る援助者(成年後見人・保佐人・補助人)を選任し,法律的に支援する制度です。
認知症,知的障害,精神障害などの理由で判断能力の不十分な方々は,不動産や預貯金などの財産を管理したり,身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり,遺産分割協議をしたりする必要があっても,自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。また,自分に不利益な契約であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい,悪徳商法の被害にあうおそれもあります。このような判断能力の不十分な方々を保護し,支援するのが成年後見制度です。
成年後見人が選任されていることは,土地や会社のように「登記」されます。この「登記」を見ない限り,成年後見人が選任されていることは分かりません。成年後見制度の前身である「禁治産制度」のように,「戸籍に記載される」ことはありません。
成年後見制度は,ご本人の判断能力の程度に応じて,「後見」「保佐」「補助」の3種類があります。
後見 | 保佐 | 補助 | |||||
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対象となる方 | 判断能力が全くない方 | 判断能力が著しく不十分な方 | 判断能力が不十分な方 | ||||
申立できる方 | 本人,配偶者,四親等以内の親族,検察官,市町村長など | ||||||
成年後見人等の権限 | 必ず与えられる権限 | ●財産管理についての全般的な代理権,取消権 | ●特定の事項についての同意権,取消権 | なし | |||
申立により与えられる権限 | なし | ●特定の事項以外の事項についての同意権,取消権 ●特定の法律行為についての代理権 |
●特定の事項の一部についての同意権,取消権 ●特定の行為についての代理権 |
後見人(成年後見人・保佐人・補助人)は,本人の意思を尊重し,本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら,次の業務を行います。
後見人を誰にするかは、家庭裁判所が決めます。
親族が,全体の約28%。その他は弁護士,司法書士,社会福祉士などの専門職です。
高知家裁では,本人の流動資産が1,200万円以上の場合,原則として専門職後見人を選任する扱いとなっています。後見人には,職務の内容によって,ご本人の財産から報酬が支払われます(報酬額は,家庭裁判所が決めます)。
どの専門職が後見人に選任されるかは,職務の内容,ニーズによって決まります。
・多額の財産管理や法的な支援が必要⇒弁護士,司法書士
・福祉的な支援が必要⇒社会福祉士
・福祉的な支援が必要で,チームでの対応が必要⇒社協等の法人後見
親族と専門職,専門職と専門職などの複数の後見人が選任されるケースもあります。
確かに,成年後見制度を利用し,後見人を選任すれば,財産管理や身上監護など一定の事柄については後見人が担うことができるようになります。
しかし,後見人を決めれば全ての心配ごとが解消できるというわけではありません。
障害のある人が社会で暮らしてくためには,ご本人を中心とした福祉・医療・地域などの支援ネットワークを構築し,ご本人の意思決定を支援していくことがなによりも重要です。後見人は支援ネットワークの重要な一員ではありますが,後見人だけでご本人の全てを支えることはできません。
また,職務上,後見人ではできないことも多々あります(Q「成年後見制度とはどのような制度ですか?」もご参照ください)。
ご本人の将来を見据えた役割分担,支援ネットワークの構築を考える中で,成年後見制度の利用の必要性についても検討していくのがよいと思います。